未来を見通す思考の力──『天才たちの未来予測図』が示すこれからの世界と日本

読書

これからの日本、そして世界はどう変わっていくのか? 気候危機、経済格差、働き方や教育の激変など、従来の常識が通用しない時代に突入した私たちに必要なのは、最先端の知性による“複眼的な未来の見取り図”です。『天才たちの未来予測図』は、気鋭の4人の専門家が、それぞれの分野から社会の変調と未来の可能性を提示してくれる一冊。資本主義や民主主義の限界を超えるヒント、これからの仕事や生き方を考える上での視座が詰まっています。

『天才たちの未来予測図』に登場する4人の“天才”プロフィール

■ 斎藤 幸平(Kohei Saito)

Kohei Saito (Frankfurter Buchmesse 2024)

大阪公立大学大学院経済学研究科准教授。専門は経済思想、社会思想。マルクスのエコロジー思想を現代に蘇らせる気鋭の研究者。著書『人新世の「資本論」』で注目を集め、「脱成長コミュニズム」という新しい社会モデルを提唱している。資本主義の限界と環境危機を鋭く分析し、持続可能な社会のビジョンを描く。

■ 小島 武仁(Takehito Kojima)

(c)ROD SEARCEY

スタンフォード大学経済学部教授。マッチング理論・マーケットデザインの第一人者で、ノーベル経済学賞受賞者らと共同研究を行う。医療、教育、人材などの社会制度を、経済理論に基づいて再設計するアプローチで実績多数。社会の「ミスマッチ」を構造的に解消する新しい仕組みづくりを目指している。

■ 内田 舞(Mai Uchida)

内田舞 公式サイトより引用

ハーバード大学医学部准教授、小児・青年精神科医。子どもたちのメンタルヘルスを専門にしながら、アメリカと日本をまたいで臨床と研究の両面で活躍。再評価(リフレーミング)などの心理技法を通じて、現代の子どもたちの「心の守り方」に向き合う。コロナ禍の影響や育児とキャリアの両立問題にも鋭い洞察を示す。

■ 成田 悠輔(Yusuke Narita)

イェール大学助教授・半熟仮想株式会社代表。経済学者でありながら、社会制度や教育、民主主義の再設計にまで切り込む越境型の知性。既存の枠にとらわれないユニークな視点で、「意味のないことに価値がある」「無意味を楽しむ社会」を提唱。AIと人間の関係性の再定義にも挑んでいる。


『天才たちの未来予測図』各章の比較表|未来を描く4人の天才のビジョン

氏名専門分野主なテーマキーワードアプローチの特徴
斎藤 幸平社会思想・経済哲学脱成長×コミュニズム脱成長、資本主義批判、共有、持続性システムの根本転換を提言
小島 武仁マッチング経済学最適な制度設計×社会課題解決ミスマッチ、疑似市場、制度設計数理的・現実的な解決アプローチ
内田 舞小児精神医療子どものメンタル×社会構造の理解再評価、心のレジリエンス、育児支援感情・社会両面の支援を融合
成田 悠輔経済学・政策設計制度の再設計×意味からの解放個別最適化、無意味、越境、逆張り破壊的・ユーモラスな構想力

『天才たちの未来予測図』各章の要点


🟥 Chapter 1|斎藤 幸平:資本主義から脱成長コミュニズムへ

  • 現代資本主義は環境的・社会的に限界に達している
  • 科学技術による「成長の解決」は幻想
  • ソ連型社会主義は否定しつつ、マルクスのエコロジー的思想を再評価
  • 「脱成長コミュニズム」=シェア・協働・非競争を重視する新社会像
  • GDPではなく、幸福・持続可能性・連帯の再定義を目指す

🟦 Chapter 2|小島 武仁:世界の歪みを正すマッチング理論

  • ノーベル賞対象の「マッチング理論」を社会課題に応用
  • 教育・就職・医療分野での「最適なマッチング」設計を提案
  • 人材や資源の“ミスマッチ”を減らすことで効率と満足度を同時に向上
  • 「自由競争ではなく設計された仕組み」で公平な社会が実現可能
  • 日本社会にも応用できる=未来は“意外と悪くない”

🟩 Chapter 3|内田 舞:withコロナ時代の「心の守り方」

  • 子どもたちの「心の問題」は社会全体の課題
  • 「再評価」技術によって感情をコントロール=心理療法の応用
  • コロナ禍における子どもの孤立と心の不安定さ
  • アメリカでの育児・キャリアのリアルなギャップと課題
  • 「今ここ」に集中し、事実を受け入れることで心を整える思考法

🟨 Chapter 4|成田 悠輔:「わけがわからない人間」が輝く時代

  • 職業の枠や意味のあることに縛られない「越境型人材」が時代を切り拓く
  • 教育は「一斉授業」から「個別最適化」へと進化
  • 社会制度や民主主義を“解体”して再設計する必要性
  • 「無意味なこと」「ムダなこと」にこそ創造性がある
  • 猫に仕えるように人間も“目的から自由になる”時代が来る?

💡まとめ:4人の視点の違いと共通点

観点共通する価値観それぞれの独自性
社会の問題意識成長至上主義・競争社会への違和感脱成長(斎藤)、制度設計(小島)、心のケア(内田)、構造破壊(成田)
未来へのビジョン「別の仕組みが必要」という共通認識実践主義・制度重視(小島)、価値転換志向(斎藤・成田)
解決アプローチ多様性・個別化・協働・再設計数理モデル(小島)、心理支援(内田)、思想・制度批判(斎藤・成田)

本書を読んだ感想

本書を通じて印象的だったのは、「答えはひとつじゃない」「理想と現実の間にこそ、未来を描くヒントがある」ということでした。キャリアコンサルタントの立場から見ても、これからの働き方や価値観が大きく変わっていく中で、クライアントの多様な生き方・働き方を支援するには、こうした“未来への視野”が不可欠だと感じます。

特に斎藤幸平氏の「脱成長」の考え方は、個人のキャリアにも当てはまる部分が多く、「常に上を目指すべき」という価値観から一歩引いた”足るを知る”働き方の選択を考えるきっかけになります。また、成田悠輔氏のように、「何の意味もないことに熱中すること」が社会にとってプラスになりうるという発想は、趣味や遊びを通じた自己成長やリスキリングの重要性を再認識させてくれました。

『天才たちの未来予測図』は、混迷する現代社会を生き抜くための“知の地図”とも言える一冊です。経済、教育、医療、政治と多方面からアプローチされた未来像は、多様な読者にとって新たな視点と気づきを与えてくれます。答えのない時代だからこそ、問い続ける力、柔軟に思考する力が求められています。この本は、そのための優れたヒント集となるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました